ドイツ研修生の古屋です。
今回はドイツの農家民泊についてお話したいと思います。
私は夏の休暇を利用して、モーゼル河流域に2泊3日の自転車旅行に行ってきました。ドイツの西側に位置するモーゼル河流域はドイツでも有名なワイン産地で、緩やかな道と美しいワインブドウ畑がどこまでも続く自転車旅行の名所でもあります。夏のバカンスシーズンには自転車旅行者に限らず、多くの観光客がこのモーゼルを訪れるのです。
ワイン産地には当然たくさんのWinzerhof(ワイン農家)がいます。このモーゼルも例外ではなく、数え切れないほどたくさんのWinzerhofがあり、その多くには「Wein Verkaufen(ワイン販売)」と「Zimmer Frei(空き部屋有り)」の看板が掛かっていました。このZimmer Freiとは農家民泊の空き部屋のことであり、手頃な値段(相場は一泊朝食付きで25~35ユーロ)で宿泊できるのです。私が旅行したのは8月上旬で、ドイツのバカンスシーズン真っ只中。ほとんどのユースホステルが満室だったため、今回の自転車旅行では資金節約のために農家民泊を探して見ることにしました。
私が宿泊したのはモーゼル沿いにあるMuedenという、ガソリンスタンドが1つしかない本当に小さな村でした。そんな村にもWinzerhofの民泊が何件もあり、私はたまたま見つけた看板を頼りにWeingut
Dehen(ワイン農家デーエン)という所に行ってみました。
看板にはZimmer Freiの札が掛かっていて、予約無しでも泊まれるのか奥さんらしき人に尋ねてみると「一般客室はもうふさがってて、トイレもシャワーも共同の一般客用じゃない部屋ならあるけど、それでも良ければどうぞ」という返事。そんなことは全くお構いなしだったので、一泊させてもらうことにしました。
案内された部屋はユースホステルともホテルとも違う、こぎれいながらもごくごく普通の部屋でした(私物と思われる服やパソコンの本などがありました)。この雰囲気、以前訪れたワイン農家で研修している研修生仲間の部屋とよく似ていました。ワイン農家に限らずドイツの多くの農家は外国人の季節労働者を雇っているので、おそらく農閑期にその空いた部屋を民泊用として利用しているのでしょう。清潔なシャワールームと雰囲気の良いテラス。店の入り口には自家製ワインの試飲スペースもあり、ご自慢のワインを堪能しつつ、奥さんとワインの好みについてちょっとだけお話することもできました。
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翌朝、案内された食堂にはパンにジャム、ハム、チーズ、サラダといったドイツでは典型的な朝食がテーブルの上に用意されていまいした。他のお客さんはまだ起きていないのか、独りで簡単に朝食を済ませ、早々と出発の支度をすることに。
出発のときに農場のお婆さんが「気を付けて行ってらっしゃい。」と見送ってくれましたが、それにしても何ともさっぱりとした出発。まるで自分の家から出勤するような感じでした。ただ、その民泊全てにおけるさっぱり感が非常に心地良く、身も心もリラックスできた素晴らしい一泊だったのです。
日本でも農家民泊が徐々に増えてきていますが、その数はドイツの比にもならないほどごくわずかです。農家の空き部屋を有効活用している点では、日本の農家民泊もドイツと共通していると思います。それではドイツの農家民泊は何が違うのか――私が一番に感じたのはその雰囲気でした。農家が肩肘張らずに旅行者を受け入れ、作業的にも無理なく、あくまで副収入として農家の宿舎を有効活用しているのです。私が地元北海道で見てきた農家民泊の多くは、中学生または高校生の修学旅行生を対象にしたもので、農業体験と農家民泊のセットが前提にありました。これは宿泊者にとって農家の生活を体験する楽しみがある一方で、宿泊者が修学旅行生などに限定されるデメリットもあります。それに「お金を節約したいから、農家に一泊しよう!」という雰囲気にもとてもなりそうにありません。
私が訪れたモーゼル流域は観光客がたくさん訪れる土地柄と、ワイン産地で労働者用の宿舎がそのまま宿泊者用に転用できる、という2つの条件が見事に合わさった結果、農家民泊が経営手段としてうまく機能しているのだと思います。そのためこの手法がそのまま日本で通用するとはとても思えません。しかし、宿泊者にとっても経営者にとっても気軽で素晴らしい農家民泊の在り方は、日本のグリーン・ツーリズムにも参考になる点は多いはずです。
一泊朝食付、自家製ワインの試飲込みでたったの25ユーロ。素敵な部屋でしかもグリーン・ツーリズムの研修にもなる、まさしくお値段以上のWinzerhof。ドイツのグリーン・ツーリズムに興味のある方も、手頃なお値段の宿をお探しの方もぜひぜひお試しください。
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