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家の前で交通事故に遭遇!
人の生死について考えてしまった

<連載 第2回

柿谷信実(スイス研修生:高知県出身)
 
 スイスに来てもう二カ月が経ちました。初めの三週間は、チューリッヒで語学研修をし、その後、各農家に一人ずつ配属されました。

 四月のスイスは、すげーキレーで、どこの家の庭もいっせいに花が咲き乱れていました。今年は桜が見られないだろうと思い込んでいたんですが、なんのこっちゃない! こっちでも桜は満開。日本と違うのは、花と同時に葉も出てくることと、キリンビールのボンボンがぶらさがっていなくて、酔っぱらいのおんちゃんもいないだけで、同じくキレーに花を咲かせていました。五月になると、庭の花も桜の花も散ってしまいましたが、うってかわって、今度はリンゴの木がキレーに花を咲かせ、桜の木はもう小さく青いサクランボをつけています。

 スイスでの生活にほとんど慣れたこの頃ですが、私のいる家の前の道で交通事故があり、一人の人が死にました。私はその時、いつものようにキッチンでサラダを作っていたのですが(あとで詳しく書くつもりですが、私の研修内容は家政中心)、三歩歩けばその状況が確認できるところにいて、事故直後の場面を見ました。

 曲がった自転車の車輪と、道路に大の字に倒れた男の人を見た瞬間、私はパニックになり、思わず涙ぐんでしまいました。私にとっては名前も顔も知らない、まったくの他人だけど、他の誰かにとっては大切な人なんだろうと思い、私の大切な人と重ねてしまったみたいで、恐くて悲しくて、どうにもなりませんでした。

 すぐに心臓マッサージが始まり、十五分くらい続いていたと思いますが、やがてキッチンに私の親分が来て、その人が死んだことを教えてくれました。人の死ぬ所をこんな近くで体験したのは初めてで、「死ぬ」ってことをあらためて考えました。

 昨年の夏、同じ農大の学生が死んでしまったのですが、その時に「これから自分で人生を作って、良くも悪くもできる。まだいっぱい可能性を持ったこの年で、死ぬなよ!」と悔しく思ったことを思い出しました。

 生きることも死ぬことも、私に理解できる日が来るのかどうか分かりませんが、自分や人がいつ死ぬのか分からないということを今回あらためて実感しました。

 私の父が何度か「後悔せんように生きよ」と私に言っていた気がします。

 国際農業者交流会の人も「反省は大いにして下さい、でも後悔はしないように」と言っていました。スイスにいても、日本にいても、どこで何をしていても、その時その時を精一杯自分なりに楽しく、頑張って生きることが大切なんだろうなぁーと、ぼんやり思います。

 スイスでの一年だけでなく、これから先ずっと、私は私に正直に後悔しないように生きていけたらと思っています。  
  

 
 
※この原稿は『農村報知新聞5月号』に掲載されたものです。