いきなりですが、私の親分についてそろそろ説明しようと思います。今まで、ただ親分と書いてきたけど、私のスイスでの親分とは、配属農家の奥様のことです。
親分は五十九歳で、四人の子どもと四人の孫を持っていて、花が大好きなちょっとおちゃめな働き者の奥様。身長百七十五センチ(私との差約二十五センチ)。この方、けっこうな直売所もやっておりまして、かなり忙しく、家事をする時間が十分にありません。そこで「農家夫人の研修生」という形で私がここに居るらしいです……。
最近では料理も「野菜を切るだけ」からかなり進歩して、メニューを言われて、だいたいは… えっへん! この私が作らせていただいております。
“ボス”という意味を込めて「親分」というのと、もう一つ別に意味があります。話はだいぶさかのぼって、私が初めてこの農家に来た日のこと。ある程度の説明が終わった後、親分が私に言った言葉。「私をスイスのあなたのお母さんだと思って、何でも言いなさい。何でも聞きなさい」みたいなことを優しく言ってくれた。親という意味も込めて、あえて“親分”という言葉を使ってます。
親分と私。実は少し似たところがあります。その一。たいていのことは笑って流すところ。私は楽しい時、どうでもいい時、ムカツク時、だいたいの時に、多種の笑顔を使って“笑って”流してしまいます。親分は、意思が通じない時はもちろん、怒っている時、興味のない話の時なども笑顔で爽やかに流します。怒られないのは助かるけど、怒られないと何が悪いのか、どこまでが許されているのかを判断するのが超難しい。
料理の例をあげると、塩加減一つをとってみて、どのくらい入れるのがベストなのか、まったく見当がつかないんです。いまだにこっちの人が薄味派なのか濃い味派なのかすら分かりません。味見をしてもらっても「文句なし!
すばらしい」と感情のなさそうな言葉しか返ってこないので、「まーいーかー」で私も笑って流している毎日です。困ったところで似ていると思う(笑)。
その二。他人と自分との間に壁をつくっているところ。親分は家族の人と話す時、急に声が低くなる。そんな時「この人、あたしに対しても、まだかざってるなー」と実感する。親分の日課の一つは、夜、居間でTVをつけて、旦那と二人して椅子に座ったまま居眠りすることです。この空間に私は入ってはいけないと無言のうちに言われている様な気がします。たまに二人でボソボソ話したりする親分の大切なプライベートの“居眠り時間”なんだと私は決めつけています。私もある程度の時間一人でぼーっとしないと自分をうまく保つことができない人です。壁と呼ぶには大げさかもしれないけど、プライベートをお互い強く守っているなーと思えます。
その三。話し合いの場で、挙げた手があてられなかった時、髪をいじるふりをして、次のタイミングを待つところ。初めてこの動作を見た時、親近感でニヤけてしまいました。
私と親分の共通点。たぶんもっとあると思います。逆に違うところももっとあると思います。残すところあと半年くらいで、もっと親分を分析して激愛できるくらい好きになれたら面白いなと思います。そして親分の悪いところはマネをしないように、尊敬できるところ、好きなところなどは、吸収して帰りたいなーと思います。
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