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ちょっぴり辛い別れも…
深まる研修生仲間との絆
<連載 第9回

柿谷信実(スイス研修生:高知県出身)
 


 
スイス研修プログラムの中に、二週間の家政研修があります。二週間、スイスの家政学校に行くのです。家政学校はスイス研修の目玉といってもよいでしょう。私が研修先国の第二希望をスイスにしたのも、スイスの家政学校がプログラムに入っていたからだった。

 期待を裏切ることなく、家政研修初日から、豚一頭が解体された。首もなく、ハラワタもなく、まっぷたつにされた豚が、よく冷えてやって来た。それを“あけみちゃん”と命名しながら、豚が肉になっていった。

 午後には、あけみちゃんは、いくつものでっかいソーセージへと姿を変えた。初日から、かなりすごいことをしてしまった! と思いながら(ほとんど見てただけだけど…)。

 さらに二日目には、一軒の農家を訪ねてヨーグルトとチーズづくりを体験した(ほとんど聞いて、見て、手伝えるところだけ体験させてもらった)。

 いやいや、感動しすぎたせいか、帰りの列車は反対方向に乗ってしまった。それでもくじけず、私たちはかなりハイテンションなまま次の列車が来るまでの時間、買い物に走った。 

 どうやら列車は季節運行で、時刻表どおりには動いていなかったようで、二度目の列車も乗り間違えた。夕食の時間に少し遅れながら、私たちはなんとか無事に学校に戻った。家政研修はまだまだ笑えることが盛りだくさんだったけど、笑い話はこの辺にして…

 スイス研修生の一人が研修半ばで事情により帰国することになってしまった。その彼女が学校に顔を出しに来てくれた。歓迎パーティーにお別れパーティーが続いた。

 そして別れの時。日本にいるときにスイス研修生みんなで歌った歌「贈る言葉」を彼女に贈った。車内にいる彼女はもちろん、みんな泣いた。まさか泣くとは思っていなかった自分も、歌い始めると涙をとめることができなかった。

 今考え直しても、どうして泣いたのか分からない。会えないのが悲しいわけじゃない。日本に帰ればまた会えるし。わかることは、私たちの間に「仲間意識」が生まれていたこと。これが「別れ」だということ。それしか分からないけど、十分納得はいく。

 正直な話、私は研修が始まる前は、スイス研修生たちと良い仲間になれるとは思ってなかった。私も他の研修生たちを受け入れてなかったと思うし、私を他の研修生たちも受け入れてなかったと思う。でも、今はあの頃とは比べものにならないほど、私だけじゃなく、みんなもたぶん同じように仲間意識がそれぞれに生まれていると思う。単なる私の思いこみだとしても、私は今、この仲間たちに満足しています。

 スイス研修生十五人。これからも、日本に帰ってからも、良い友達でいつづけたいな!

 
 
※この原稿は『農村報知新聞12月号』に掲載されたものです。