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「俺のアメリカ」・・・その1

大庭充裕(米2/福岡県出身)

 
 「幸せだ」と心の底から思う。

 尊敬する父、母に少しでも近づいていく。
 自分の夢を実現させる。

 自分の中で高まる沢山の気持ちを追いかけて、「アメリカへ行こう!」と決意しました。日本を飛び出して一年5ヶ月。時の早さに驚く毎日。今までにも沢山の体験や出来事が、ここアメリカでありました。

 降り返っても戻ることのない日々。しかし、それは思い出として私の心に残っています。そして、アメリカに来る一年前から書き始めた日記にも厚い思い出となって残っています。

 このアメリカ研修は、21歳の私にとって今までにない人生へと導いてくれています。この素晴らしい体験を話すのなら、今まで過ごした日々と同じ時間が必要になるかもしれません。書くとなると正直何処から書いて良いのか分りません。その中でも特に心に残っていることを書けたらと思います。


  まず最初に、私がこのプロジェクトに参加するにあたって教わった言葉の中に「Bossになる為の修行をする」という言葉があります。この言葉は、このプロジェクトの意味を、体を張って伝えてくれた人が教えてくれました。日本での講習所長、森永さんです。森永さんの言葉一つ一つそしてアメリカ研修に参加するに当って出会った沢山の仲間。沢山の人達がこの研修に対する姿勢を高めてくれました。ここから私のアメリカは始まりました。

 アメリカの大地での農業。初めて配属された農場(短期農場実習)は、オレゴン州 Hood RiverのHasegawa Orchardでした。ここでの出来事は、今までにない体験で一杯でした。ここは、一言で言うなら、「Bossが凄い!」

 仕事では、毎日Bossとの戦い。Irrigation(※潅水)パイプの移動。Picking(※収穫)。毎日Bossがジープを吹かして怒鳴り回る毎日。その度に私の体は引き締まり農場を駆け回っていました。

 初めてのアメリカ農業。笑う暇さえなかった毎日・・・。しかし、毎日、沢山の刺激を浴び、充実した日々を過ごして居ると、仕事もどんどん楽しくなり、自分に目標やするべき事が沢山出てきました。Bossと居る毎日が楽しい日々へと変わり、例えどんなに辛いことがあっても、それを逆行に変えることさえ出来ました。

 ここでの一番の目標は、ナシ・リンゴの収穫でした。過去37年間にこの農場に配属された沢山の研修生。その研修生がこの農場で収穫した箱(※約1m四方の大箱)の数。最高記録の7箱を取る事でした。収穫を始めた頃は、3、4箱がやっとでした。初めてのハシゴを使っての収穫。あまり少ない箱の数に悔しい気持ちで一杯になりました。簡単に達成出来るほど甘くない事を身を持って感じさせられました。

 しかし、自分の気持ちを武器にして、「絶対にやってやる!」「負けるものか!」と思い、昼の弁当を食べる時間を忘れて収穫したり、弁当を食べる時も近くに居るWorkerや木を何回も照らし合わせて見ていました。気付くとBossが横に居て「ご飯食べたんか〜」と怒鳴られ、急いで弁当を口に運びました。

 毎日のIrrigationの作業も終ると直ぐに木を睨み付け気付くと水が顔に当って「チクショ〜」と苦笑い。

 そんな日々を過ごしていたある日、7箱取ることが出来たのです。そして次の日、記録更新となる8箱を取ったのです。その時の嬉しさは、今でも私の力となって表れてきます。

 「嬉しい。」8箱を取った気持ちは凄く嬉しかった。しかし、何より嬉しい気持ちになったのは、毎日怒っていたBossがその時に言った言葉。「やったじゃないか〜」「やったじゃないか〜」Bossも興奮したみたいで、私も自然にガッツポーズしていました。そして、「やったよ〜!」と震え興奮する気持ちを声に出しました。

 私は、この時思いました。「俺の欲しかった嬉しさはこれだ」「なんて気持ちがイイんだろう」「ヤッタゾ〜!」 その日からの目標は自分の前から持つ目標とは少し違うものも増えてきました。目標ではなく、Bossの喜ぶ顔が見たい。もっと喜んでもらいたい。そう思うと気付かない内に一生懸命になれたし、前よりもっと頑張れました。今思うとその気持ちが何よりも大切であり、8箱は後に付いて来たプラスの喜びでした。しかし、この喜びは、沢山の物も運んで来てくれた気がします。

 Bossを思い仕事をし、「この農場は俺の農場だ」と思い自分がBossなら、何をされたら嬉しいか?助かるか?Bossを喜ばせようと思うと、自分もBossの気持ちに応えようとして、Bossの期待以上の事をしてやろうと思いました。この思いは、自分の仕事のミスにも出て、悔しさと、責任となり大きく伸し掛かってきました。

 しかし、楽しい事も前より増えるのも分りました。辛い事も楽しく出来るそれが自分に戻ってくると、もっともっと頑張れました。そんな毎日の3ヶ月。ここでの3ヶ月の出来事は、アメリカ研修の最高のスタートになりました。

 それから今、一年が経過しました。

 今は、カリフォルニア州IndioにあるGolden Acre Farmでメキシカン労働者達と一緒に汗を流し働いています。英語からスペイン語に変わり、Bossとの戦いからメキシカンへの戦いへと変わりました。しかし、みんな同じ人間。本気になって何でもぶつかっていけば、みんなも本気になってぶつかってきてくれます。ここでは、本気で人と接する大切さも前より学ぶことが出来ています。この農場に配属されて最初に入ったクルーはレタスのクルーでした。初めて体験する本場のメキシコ人達との団体作業。今でもこの時のレタス・クルーの印象が一番強い気がします。

 1日に一人7,000〜8,000以上のレタスを収穫するメキシコ人労働者。このメキシカン達の速さ、集中力、体力や負けず嫌い、最初は、全ての事に驚かされました。そして、私の心もワクワク、ドキドキの興奮で一杯でした。1日でも早くメキシカン達と競い合える様になってやる。毎日そんな気持ちで一杯でした。

 しかし、やはり最初からメキシカン達の様に収穫やレタスの箱詰めといった厳しい作業をさせてもらうことは少なく、他の仕事へと回させられることや手伝いが殆どでした。それでも体がウズウズする中、少しでも時間があると収穫を手伝い、休み時間はメキシカン達に色々仕事を教えてもらいました。そしてメキシカン達の仕事、行動や体の動きを観察しました。これは、私が仕事をする上で一番大切にしていることです。

 
 
(次回へ続く)
 
 
※この原稿は『北米報知新聞12月18日号』に掲載されたものです。