欧州支部(在ドイツ・ボン市) 皆戸顕彦
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忙しい日常でファーストフードのお世話になることがありますが、ドイツではハンバーガーに並んで(あるいはそれ以上に人気の)ドネルケバブがあります。日本でも見かけるようですが、鶏肉や羊肉をまとめて巨大な串刺し状にし、回しながら火であぶり、焼けたところからナイフで削り取ってパンに野菜と一緒に挟んで最後にヨーグルトソースを掛けた食べ物です。トルコからやってきた食べ物ですが、いまやドイツ人のランチタイムに欠かせない重要なB級グルメです。また似た食べ物で、ギリシャのギュロスという肉料理もケバブとせめぎ合っています。しかしながら、これらドイツの胃袋を満たすファーストフードには、外国人労働者の歴史が挟み込まれているのです。
1950年代からドイツは外国人労働者を積極的に取り込む政策を展開してきました。高度成長期にいわゆる3Kでの働き手を国外(スペインやイタリア、旧ユーゴスラビア)に求めたのです。60年代以降になるとトルコからも労働者がやってくることになります。
ドイツという国は確かにドイツ人の国ですが、実に沢山の人種で構成された国です。ドイツが労働者募集を止めた1973年までの間に、何と1400万人もの外国人がドイツへやってきました。70年代になるとドイツ人の労働力を確保する事が容易になり、国内失業率上昇を受け、外国人労働者がやり玉にあげられました。中には帰国させられる人もでてきましたが、ドイツで結婚したり家族ごと移住してもう自分の国に居場所がない外国人おり、彼らはドイツを第2の祖国とすることになったのです。かれこれ30年以上が経ち、外国人労働者の2世3世がドイツで国籍を取得し暮らしていますが、積極的に社会融和政策をしてこなかったドイツでは、今になってドイツ語も母国語も中途半端な子供達が学校や社会で問題になっています。特にトルコ人は非常に多く移住してきており、トルコ人家庭での教育問題はもはや社会問題です。
いずれにしても、この半世紀の間に外国人たちはしっかりとドイツに根を下ろし、もはやドイツの住民として暮らしを確立しています。その間に文化や民族の融合だけはじわじわと広がって行ったに違いありません。その一例がケバブであり、ギュロスなのです。
1970年代、ベルリンを中心にケバブのお店が開店していきました。シンプルかつカジュアルなスタイルでありながらどっしりとした食べ応えのある量と味が受けて、ケバブはドイツ人の舌を着実に魅了していきました。日に200トンとも300トンとも言われるケバブが生産され、1998年ではケバブだけで15億ユーロの売り上げがあったそうです。
という事で、日常生活の観点からすればトルコの食文化がドイツを乗っ取って久しいのです!
さて、ドイツへ留学した人の笑い話ですが、帰国した留学生に「ドイツで一番美味しかった料理は何?」と聞いたところ、「ドネルケバブだな!」と答えたとか。
侮りがたしドネルケバブ…。
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