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-フィリピン技術協力事業 現地リポート-
(土壌・資源保全に配慮した安全野菜生産・流通プロジェクト)

26年度No.1:ラ・トリニダード町にて
新たなイチゴプロジェクトがスタート

 ベンゲット州都であるラ・トリニダード町(以下LT町)はフィリピン最大のイチゴの産地であり、イチゴ収穫のシーズンになると多くの観光客がイチゴ狩りにLT町を訪れます。しかし最近では周辺の町でもイチゴの栽培が徐徐に増えており、LT町長は四季成りイチゴの栽培拡大とイチゴ狩りのような観光農業をベースにして、イチゴ産地としての地位を保持していきたいと意気込んでいます。

  

 プロジェクトの話題に入る前に、まずベンゲットでのイチゴ栽培の背景について説明したいと思います。ここベンゲットで栽培されているイチゴは一季成りと四季成り※の両方がありますが、雨が続く雨季の間(6月から10月)は病気や浸水の被害が大きく、四季成りの品種であっても露地で栽培するのは相当なリスクを伴います。

 ※イチゴには大きく分けて一季成り四季成りの2種類があります。一季成りとは日照時間が短くなる時に花芽ができ、冬の低温を経て春にだけ実を付ける品種を指します。一方の四季成りは日照時間にほとんど影響なく結実する品種のことを指します。

 もう1つ注目すべき点は、フィリピンのイチゴは毒性の強い農薬と非常に不衛生な潅水により、日本人にとっては信じられないほど汚染されているという現状です。適切な管理のもと生産されたイチゴなら大丈夫ですが、出店で直売されているようなイチゴを生で食べると日本人は食中毒を起こす危険性が高いです。現地の人たちは生で食べてもそれほど問題はありませんが、それでも生食として消費は少なく、収穫されるイチゴの大半はジャムやワインなどの加工用として消費されます。イチゴショートケーキをお目にかかる機会はまず無く、生食用としてのイチゴ販路拡大も大きな課題となっています。

 私達のプロジェクトで進めている高設栽培なら雨季でも病気や浸水の被害を最小限に抑え、安定的に収穫ができるようになります。それに加えて適切な防除、肥料設計、潅水により、誰でも安心して美味しく食べられるイチゴを安定供給し、販売単価の向上と生産者の所得向上にも結び付けられると期待しています。

 5月11日長野県南牧村在住のイチゴ農家菊池辰夫氏がベンゲット州のLT町を来訪しました。今回はLT町のイチゴ栽培のモデル農家であるジュミー・ブヤさん(女性)のハウスにイチゴ栽培用の高設ベッドを設置すべく、お忙しい中時間を割いていらっしゃいました。

 菊池氏は長野県を代表する四季成りイチゴ栽培農家で、ベンゲット州からの農業青年研修生を長年受け入れてきました。さらにこれまで受け入れた研修生や野菜生産現場を視察・指導しにベンゲット州に訪問するなど精力的に農業技術向上に貢献してきました。今回のイチゴ栽培高設ベッドの設置もLT町長と農政課から要請を受け、実現に至った訳です。

 菊池氏の来訪に合わせて、過去に彼の元で研修を受けた青年達が応援に駆けつけてくれました。さすが8ヶ月間一緒に作業した師弟だけに、見事な連携で次々と高設ベッドを設置していきました(以下の写真参照)。LT町農政課やベンゲット州農政部からの応援もあり、菊池氏の滞在3日間で何とか目標としていた高設ベッドの設置を完了することが出来ました。



 今後は苗の定植から収穫までの栽培管理を指導していくことになります。露地栽培とは管理がまるで異なるので、このモデル農家さんも一から勉強していく必要があります。すでに高設ベッド栽培を実践している研修生OBと協力して、我々もイチゴ栽培の発展に貢献していきたいと思います。

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